さいたま市緑区、住宅街の一角に建つ、自宅と一体になった一軒家。
ここが「梅川裕衣税理士事務所」、SNS上では「ともだち税理士」の名で親しまれる、梅川裕衣さんの仕事場です。
開業は2024年。まだ数年に満たない歩みですが、そこにたどり着くまでには10年近い道のりがあったといいます。
取材に伺ったのは夏休み明けのタイミングでした。
「娘が小学1年生になって、先週から2学期が始まったばかりで」と裕衣さん。
給食が再開したありがたみを語り合うところから、取材は和やかにスタートしました。
税理士と聞くと、どこか堅い、近寄りがたいイメージを持つ人も多いはずです。
けれど裕衣さんが目指しているのは、その真逆。
友達のように気軽に相談できる存在であることでした。
今回は、税理士になるまでの回り道、埼玉との出会い、そして「クリーンであること」への強いこだわりまで、じっくりと聞かせていただきました。
遠回りの末にたどり着いた、税理士という仕事

大学卒業後、裕衣さんが最初に選んだのは、税理士とはまったく違う仕事でした。
ABCクッキングスタジオでの営業を経て、スープストックトーキョーの店舗で接客業に従事。現場の仕事は楽しかったものの、体力勝負の大変さを感じていたといいます。
「接客業は好きなんですけど、長くお付き合いできる仕事がしたいなと思って」。
そこで思い出したのが、大学の商学部時代に学んだ簿記でした。
お客様と深く長く関わり続けられるデスクワークを求めて、税理士という資格に行き着いたそうです。
一度仕事を辞め、家族のサポートを受けながら1年半ほど勉強に専念。
その後、東京の税理士事務所に約8年勤めながら勉強を続け、資格を取得するまでにはおよそ10年を要しました。
「本当はもっと早く合格できればと思っていたんですけど、結婚や出産、家を建てるといった人生のイベントも重なって」。
もがきながら、2024年、資格取得と同時に独立を果たしました。
ちなみにご主人も同じ税理士です。もともとは別の業種からの転身組同士で、税理士を目指す全日制の学校で出会い、クラスメイトとして朝から晩まで机を並べた仲だったといいます。それぞれ別の事務所で経験を積み、資格を取得したタイミングで、ふたり揃って独立しました。

縁もゆかりもない街が、大好きな場所になるまで
裕衣さんは大阪生まれ、鳥取育ち。ご主人は群馬出身で、埼玉とは縁もゆかりもない二人でした。「西日本にずっといたので、埼玉の背景知識が一切ない状態で来たんです」。
転職を機に上京し、税理士事務所に勤め始めた2016年、初めて埼玉県熊谷市に足を踏み入れました。

2年ほど熊谷で過ごした後、南浦和に移住し、浦和という地域があまりに魅力的だったので、現在のさいたま市緑区に自宅兼事務所となる家を建てました。
埼玉を選んだ理由には、ご主人との「地理的な妥協点」という側面もあったといいます。東京で働いていた裕衣さんと、かつて群馬で働いていたご主人。ちょうど中間にあたるのが熊谷だったそうです。
子育てのしやすさも、埼玉への愛着を深めた理由のひとつでした。「さいたま市は支援センターや公園がすごく充実してるって、他の地域の友人からも聞いて。この辺りは遊び場も選択肢がたくさんある」。今では「埼玉に帰ってくるとほっとします」と語るほど、この土地に根を下ろしています。
お客様は東京の方が多いものの、埼玉(美園エリアなど)のお客様もいるとのこと。オンラインでの対応が中心のため、最も遠いお客様は仙台在住だそうです。
「梅川裕衣税理士事務所」に込めた、もうひとつの顔
屋号は本名を冠した「梅川裕衣税理士事務所」。税理士事務所の名称には名前を入れる必要があるという業界のルールに基づくものです。一方でSNS上では、ひらがなで「ともだち税理士」というコンセプトを掲げています。
「税理士って言うと、なんか難しいことを言いそうっていうイメージがあると思うんですけど、そうじゃなくて、友達みたいに相談できる存在でありたくて」。

この思いの背景には、「こんなこと聞いていいのかな」とおそるおそる聞いてくださるお客様や、「なにも知らなくてすみません」と遠慮気味にご相談くださるお客様との関わりにあるといいます。
裕衣さんが所属する税理士会浦和支部には約520人の税理士がいますが、女性は2割に満たず、30代となるとさらに少数派です。一方で、起業という選択肢を持つ女性が増えています。
「数字やお金のことに苦手意識を持つ女性起業家も少なくありません。だからこそ、同じ目線に立ち、一緒に考えながら、その苦手意識を少しずつ取り除いていきたい」。
困ったときに気軽に相談できる、友達のように近くで寄り添いながら経営の応援をするパートナーでありたい。そんな願いが、「ともだち税理士」という名前には込められています。
絶対に譲れない、「クリーンさ」への一線
仕事をするうえで絶対に譲れないことを尋ねると、裕衣さんは「誠実であること」と答えてくれました。
事業が成長し、売上や利益が増えてくると、税金の負担も大きくなります。そんなとき、少しでも税金を抑えたいと考えるのは自然なことです。
一方で、世の中にはさまざまな節税の情報や商品があふれています。その中には、一見魅力的に見えても、実態が伴っていなかったり、思わぬ税務上のリスクを抱えていたりするものもあります。場合によっては詐欺に巻き込まれたり、知らぬ間に脱税に手を染めてしまっていたということもあり得ます。
「お客様は悪気なく、よかれと思って選んでしまうこともあると思うんです。だからこそ、そういったリスクからお客様を守ることも、税理士の大切な仕事だと思っています」
もちろん、法律の範囲内でできる節税は積極的にサポートしたい。ただ、目先の節税効果だけを追い求めるのではなく、その先も安心して事業を続けられることを何より大切にしたいといいます。
「せっかく頑張って築いてきた事業だからこそ、税金のことで後ろめたい思いをしたり、不安を抱えたりしてほしくないんです」
だからこそ、どんなに魅力的な提案であっても、税理士として譲れない一線があるといいます。
一度でもグレーな橋を渡ってしまうと、その後もずっと不安がつきまとう。裕衣さんは、日々きちんと申告を続けることの心理的な安心感の大きさを強調します。近年は税務調査官がSNSを事前調査に活用する動きもあり、クリーンであることの重要性は増すばかりだといいます。
相談のハードルを下げる、スポット相談という工夫
裕衣さんの事務所には、継続契約を前提としない「スポット」の相談プランがあります。40分、90分、90分×2回という3つのタイムチャージ制のコースです。
「税理士と顧問契約を結ぶと、ずっと払い続けないといけないというイメージがあると思うので」。
まずは気軽に、一度だけでも不安なことがあれば相談してほしいという思いで作ったメニューです。

初めて顔を合わせるお客様の緊張をほぐすために大切にしているのは、世間話だといいます。特に子育ての話題は鉄板だそうです。「お客様の事業の話も、お客様の想いや熱意をたくさん聞くことができるので、深掘りしてお話を伺う時間がとても楽しいです」仕事のためというより、純粋にお客様の話を聞くこと自体が好きだと、裕衣さんは笑います。
一方で、「友達のような距離感」の匙加減には、今もなお試行錯誤が続いているそうです。「ただの友達だと、共感だけで終わってしまうこともあると思うんです。なので最近は、『お金や経営のことに詳しい、頼れる姉御肌の友達』というイメージを目指したいな、と思っています」
親しみやすさを大切にしながらも、専門家として必要なときには的確なアドバイスができる存在でありたい。一方で、プライベートな話題を好まないお客様もいるため、一人ひとりにとって心地よい距離感を探りながら、信頼関係を築いていくことを心がけているといいます。
心に残るふたつのお客様の言葉
これまでで印象に残っているエピソードを尋ねると、裕衣さんはふたつの出来事を挙げてくれました。
ひとつは、仙台在住のお客様とのやり取りです。そのお客様は以前、地元の無料相談会でベテランの税理士に相談したものの、話が噛み合わず、うまく相談できなかった経験があったそうです。裕衣さんに依頼し直したところ、長年抱えていたモヤモヤが解消されたといいます。法人化を検討する際、地元の税理士のほうが料金は安いはずなのに、「他の税理士にっていうのは考えてなくて」と言ってもらえたことが、何より嬉しかったと振り返ります。
もうひとつは、近所の美容師さんの開業支援です。
もともとは裕衣さん自身がお客さん側(髪を切ってもらう側)だったという美容師さんから、自身のサロン開業にあたって融資の相談を受けました。売上や経費の見込みを一緒に数字に落とし込み、事業計画をまとめた結果、希望額の満額承認を得ることができたそうです。
「数字とか書類が苦手だったから、本当にお願いしてよかったですって言ってもらえて」。
その後もサロンの経営は順調で、裕衣さんは今もお客さんとして通い続けているといいます。この経験が、地域の実店舗を営む女性たちへの支援に、より強い関心を持つきっかけになったそうです。

これから ─
埼玉で開業して夢を叶えたいという女性たちに、伴走したい
これからの展望として裕衣さんが語ったのは、地域に根ざした支援でした。「埼玉の近くで、女性が経営するカフェとかケーキ屋さん、美容室や整体サロンとか、そういうお店づくりを一緒にプロデュースするようなお手伝いをしたいんです」。
融資が必要な開業のタイミングから、経営者自身の思いを聞きながら、寄り添うようにお店づくりをサポートしていきたいといいます。「こういう働き方がもっと増えたらいいなって、本当に思います。子育てと両立するという意味でも、通勤しなくていい働き方は大きいので」。
自分で何かを始めたいけれど、どこから手をつけていいか分からない。そんな女性たちにとって、遠い存在の税理士ではなく、近くて頼れる存在でありたい。裕衣さんは、そう言葉を結んでくれました。
5つの質問
Q1. 事務所のモットーを一言で言うと?
友達のように寄り添いながら、専門家として支えること。
Q2. 一番好きな時間は?
仕事では、お客様の事業の話をじっくり聞いている時間で、プライベートでは娘と遊んだり、一人で読書する時間です。
Q3. 繁忙期と、ほっとひと息つける時期は?
1月から法人決算が集中する時期まではバタバタですが、7月・8月は家族との時間もしっかりと過ごせています。
Q4. 埼玉の好きなところは?
都会と田舎のいいとこどりで、子育てしやすいところです。
Q5. これから挑戦したいことは?
埼玉の女性が営むお店づくりの、開業から融資、経営、申告まで一気通貫で伴走することです。
屋号
梅川裕衣税理士事務所
代表
梅川 裕衣(うめかわ ゆい) さん
活動エリア
埼玉県さいたま市緑区
開業
2024年
各種リンク
https://umekawayui-zeirishi.com/
https://youtube.com/@umekawayui?si=yDcDxbveJ11RkE3B
https://www.instagram.com/umekawa_yui
note: https://note.com/yui_zeirishi
対応内容
確定申告、法人化支援、開業融資サポートほか
主な対応エリア
東京・埼玉を中心に全国対応
取材中、「裕衣さん、すごく気さくで話しやすいですね」という声が思わず上がる場面がありました。実際、取材が始まる前から、夏休み明けの学校生活や給食の話で盛り上がり、気づけば緊張がほどけていました。その空気感こそ、裕衣さんが大切にしている「友達みたいに相談できる」という姿勢そのものだったように思います。
税務の世界で約10年、経験を積み重ねた末にたどり着いた「ともだち税理士」という働き方。その道のりの長さが、目の前のお客様ひとりひとりに向き合う丁寧さにつながっているように感じました。数字が苦手な女性たちの背中を、そっと押し続ける存在。梅川裕衣さんの挑戦は、これからも続いていきます。
取材・執筆:岡部 ひとみ
撮影:高橋 麻衣